ゼオライトLTA中のカリウムクラスターの電子スピン共鳴
「局在s電子系における軌道縮退とスピン軌道相互作用」

(参考文献)
[1] 配列ナノ空間における相関s電子系: ゼオライト結晶中のアルカリ金属クラスター ,野末泰夫,中野岳仁,固体物理 36 (2001) 701-712.
[2] Electron Spin Resonance Study and Orbital Degeneracy of Potassium Clusters in Zeolite LTA, T. Nakano, Y. Ikemoto and Y. Nozue, J. Phys. Soc. Jpn. 71 (2002) Suppl. 199-201.
[3] Orbital degeneracy and magnetic properties of potassium clusters incorporated into nanoporous crystals of zeolite A, T. Nakano and Y. Nozue, J. Computational Methods Sci. Engin. 7 (2007) 443-462.

 アルミノケイ酸塩ゼオライトの一種A(骨格構造タイプは LTA)では,内径11Åの細孔が内径5Åの窓を共有して,単純立方構造で配列している.このゼオライトの陽イオンをカリウムイオンに交換し,更にカリウム原子を吸蔵させると,そのs電子は複数のカリウムイオンに共有されて細孔内に広がり,クラスターが形成される(配列クラスターの模式図を参照).このカリウムクラスターのs電子の波動関数は,隣接クラスターと部分的に重なって相互作用が発生し,強磁性が観測される[1]。この強磁性は,クラスター当たりのs電子数が2を超えたとき,突然観測される.これは,最初の2個のs電子が 1s-like の状態を占有するのに対して,3個目のs電子はクラスターの 1p-like の状態を占有することと一致する(クラスターのs電子の量子準位の図を参照)。このことは 1p-like の状態の軌道縮退が強磁性発現に重要な寄与を担っていると予想されるが,軌道縮退を直接示す現象が電子スピン共鳴の g 値の変化として観測された[2].クラスターあたりの平均s電子数が2を超えると,低温でのg値が突然減少する(電子スピン共鳴の図を参照)。g値の減少はスピン軌道相互作用によるものであり,それが平均のs電子数が2を超えると突然大きくなるのは,1p-like 状態の軌道縮退によって増強されることを示している。このスピン軌道相互作用によって反対称交換相互作用が飛躍的に増強され,反強磁性配列したスピンが傾くことによって強磁性が観測されるというモデルを提案している(クラスターのs電子の量子準位の図を参照)。なぜ,クラスターの1p軌道で Jahn-Teller 効果に打ち勝つようなスピン軌道相互作用が発生するのかについては,クラスター軌道のようななめらかな波動関数では通常期待されない。しかし,クラスター内に多数分布するカリウムイオンの内殻軌道との直交性を考慮すると,クラスターの1p軌道では,大きなスピン軌道相互作用が期待されることがわかった[3]。この符号は極方向と赤道方向とで異なることが予想される(クラスターの1p軌道との直交性の図を参照)。